真打登場?(2018年9月22日)

 

 今月に入って、県内何か所かで「働き方改革関連法案」について、セミナーでお話しする機会がありました。使用した資料は、厚生労働省が発行している24ページもののパンフレット。現時点での概要を上手にまとめてあり、ビジュアル的にもまあよく出来ています。もっとも、中身をご覧いただければすぐ分かりますが、3つのパンフレットと1つのリーフレットをホチキス止めしただけ。ちょっと「やっつけ感」が強すぎますね(苦笑)。

 

 さて、まさにその「働き方改革関連法案」ですが、何がどう変わって何をどうしたらいいか分からないという感想が圧倒的です。確かにパンフレットを見ても、大きく2つのポイント、細かくは8つの内容からなっていて、しかも報道等では、そもそも関連法案とは8本の労働法改正をおこなうための法律案の総称らしい。そんなこと言われれば、どこから手を付けていいか分からなくなるのも人情です。しかし、そうは言っても施行期日は2019年(つまり来年!)4月1日だし、あと半年しか時間はありません。さて、どうしたものか・・・。

 

 ヒントはその「施行期日」にあります。パンフレットを子細に見れば、そもそも大きなポイントの1つである「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」は2020年4月1日が施行期日です。もう1つのポイントである「労働時間法制の見直し」は、確かに施行期日は2019年4月1日となっていますが、その下の※マークに注意すると、中小企業の適用は2020年4月1日だったり2023年4月1日のものもある。中小企業に限って言えば、少しは時間的な余裕があるようです。

 

 「働き方改革」は、これからの企業活動においては、非常に重要な位置づけになっていくと思われます。6月29日に成立して以来、何度もこのコラムで取り上げようとしましたが、細目が定まっていないなど正直言って私自身も分からない部分が多かった。9月に入って少しずつですがその姿が見え出しました。今後折を見て、その全貌に迫って行きましょう。まさに真打登場です。

特別刑法(2018年8月31日)

 

 まだまだ暑い日が続いていますが、8月も今日で終わり。暦上は立派な秋です。そんな夏の終わりに、痛ましい労働災害が発生しました。諫早市と島原半島とを結ぶ自動車専用道路「島原道路」の建設作業現場で橋桁が落下し、作業員1名が重体、1名が重傷という被害に遭われました。その後は被災者の方が死亡されたという最悪のニュースはないようで、お二人の一日も早い快復をお祈り申し上げます。

 

 さて、知られているようで案外知られていないのが、労働安全衛生法や労働基準法、最低賃金法などいわゆる労働関係法令の多くが罰則を規定する法律であるということ。刑法(刑法典)以外のこのような法律を特別刑法といいます。ちなみに労働安全衛生法の罰則としては、軽いものでも50万円以下の罰金、重いものともなれば3年以下の懲役又は300万円以下の罰金があります。決して軽くない罰則が適用され、しかも前科が付いてしまう(道路交通違反の反則金とはわけが違うことに注意してください)。知らないでは済まされない話ですね。

 

 もちろん、労働安全衛生法違反を犯せばすべて直ちに無条件で罰則が適用されるのか(送検手続きが取られるのか)と言えば、さすがにそんな乱暴な(?)ことはありません。しかし確実に言えることは、死亡災害など甚大な被害(取り返しがつかない被害と言った方がいいかも知れません)を発生させ、その原因として法違反が存在している場合には、労働基準監督署などによる送検手続きが取られる可能性は極めて高いということです。

 

 労働災害による被害者を発生させないことが第一、基本中の基本です。そしてそのために、さらには責任者や会社が罰則を適用されないためにも、労働災害の防止を主な目的の一つとする労働安全衛生法をしっかりと守ること。あらためて肝に銘じたいものです。

奥の手は?(2018年8月12日)

 

 予想通り一昨日8月10日(金)で47すべての都道府県で平成30年度地域別最低賃金(都道府県最低賃金)の改定額が答申され、同日付で厚生労働省のホームページにその結果が掲載されました。発効予定年月日は10月1日から10月6日までで、一番早い10月1日は36の都道府県となっています。発効予定日としてはほぼ昨年並みで、その意味からは比較的順調な審議状況だったと言えるのではないでしょうか。

 

 今年の最大の目玉は、何と言っても鹿児島が「単独」最下位となったことでしょう。単独最下位が出たのは平成14年の沖縄以来実に16年ぶり。もちろん、鹿児島としても単独最下位は初めてのことです。特に昨年は過去2番目に多い鹿児島を含む8県が同額最下位でしたから、見方を変えれば鹿児島だけが「一人負け」の様相を呈したことになります。

 

 最低賃金審議会は簡単に言うと、少しでも最低賃金額(給料)を上げたい労働者代表と、少しでも最低賃金(人件費)を上げたくない使用者代表、その間を取り持つ公益代表の3者によって議論されますが、実は事はそれほど単純ではなく、特に本来は最低賃金を上げたくないはずの使用者側も、あまりその位置(順位)が下過ぎるのも避けたいという本音もチラホラ・・・。「使用者としてそれだけの賃金しか支払えないのか!?」ということなんですね。それだけに、とりわけ単独での最下位だけは避けたいというベクトルが働くというわけです。

 

 鹿児島は九州新幹線が全線開通した平成23年頃は景気も上向きで、県最低賃金は他県と比べて引き上げ額も高い水準でした。今年も特に景気が特別に悪化しているという話は寡聞にして知りません(現に目安に対して1円上積みしています)。にもかかわらず、蓋を開けてみれば県として初めての単独最下位という結果になりました。これを労使を含めて地元の経済界がどう受け止めるか。ところで、なぜ発効「予定」年月日というのかと言えば、それは答申公示後の異議申出によっては結論が変わり得るからなんですね。もし答申された額に対し異議申出(高過ぎる、低過ぎる)が為された場合は、あらためてその異議に対して審議されることになります。異議申出を受けて最初の結論が変わるという前代未聞の事態となるか? まだまだ予断は許されないようです。

いよいよ大詰め(2018年8月9日)

 

 各都道府県での最低賃金審議が佳境を迎えています。あくまで私個人がネット等で集計した限りですが、昨日現在で36都道府県で答申(都道府県最低賃金審議会(いわゆる地賃)での結論)が出ているようです。残りの11県でも、おそらく今日明日中にはほとんどの県で答申が出るのではないでしょうか。

 

 少しおさらいをしておくと、地賃で出た結論が都道府県労働局長あてに答申され、まずこれについての異議を15日間受け付けます。異議があった場合はあらためてその意見について審議を行い、最終的に最低賃金が決定されることになります。その後この内容を官報に掲載し(これを決定の公示と言います)、所定期日経過後に正式に新たな最低賃金として効力が発生(発効)します。長くなりましたがこれらの手続きがあるため、答申が出てから最終的に発効するまで2カ月弱掛かるというわけです。今年は大半の都道府県で10月1日発効、遅くとも10月上旬には発効ということになりそうですね。

 

 さて、今年の審議状況を見てみると、いくつか興味深い点があります。まず第1点、今年はAランク、Bランクの都道府県であまり目安への上積み(目安+)が行われず、Cランク、Dランクで上積みが多く行われています。特にDランクでは現在すべての県で目安上積みが行われ、+2円という県もすでに4県! もともと目安は上位のランクほど額が大きく、目安通りの結論が出ればそれだけ上位ランクと下位ランクの差が開く、いわゆる地域間格差が拡大するという性格を持っていて、今年もその傾向が続くものと思われていました(A:27円、B:26円、C:25円、D:23円)。下位ランクでの目安上積みが多いという今年の特徴は、地域間格差の拡大に対する下位ランクからのアンチテーゼ、大げさに言えば「地方の反乱」と言えるかも知れませんね。

 

 結論の出ていない残り11県の過半数はDランクの6県です。そもそも今年の流れを作ったのは、比較的早い時期に結論が出たDランクの某県だと言われていますが、その真偽はさておきこの6県、とりわけ同一最下位の3県の答申がどう出るか、興味は尽きません。

 

 *今回からこのナビゲーション名を変更しました。ここでは法改正などの時々のトピックスについて、個人的見解を述べる場として使っていましたが、確かにこれまでの「新着情報」というのはあまり相応しくない名称のようです。ということで、これからもよろしくお願いいたします。

目安が出た!②(2018年8月2日)

 

 やや旧聞に属しますが、先月7月26日に中央最低賃金審議会会長から厚生労働大臣あてに今年度の地域別最低賃金の引き上げの目安が答申され、おそらく今週から全国の都道府県最低賃金審議会(地賃)で各都道府県ごとの地域別最低賃金が議論されていることだと思います。

 

 目安とはまさしく「引き上げの目安」であって、この額に拘束されるものではありませんが、過去の経緯を見ればおおむね目安額か+1~2円の幅で決着することが多いようです。まあ、今年は過去最大の引き上げ額だし、目安通りの引き上げ額で落ち着く都道府県が多いと思われます。

 

 さて、きな臭い話を少々(笑)。現行の地域別最低賃金で全国最下位の県(つまり最も最低賃金が低い県)は、我が長崎をはじめとして高知、佐賀、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の8県で、時間額737円です。で、その次に低い県が青森、岩手、秋田、鳥取の4県で、時間額738円。そしてさらにその次に低い県が山形と愛媛の2県で、時間額739円となっています。ではその前年(平成28年度)はどうだったかというと、最下位が宮崎、沖縄の2県(額は省略)、最下位2位が鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、鹿児島の7県、最下位3位が青森、岩手、秋田、徳島の4県でした。ご推察のとおり、最低賃金が低いのは福岡を除く九州全県と中四国、東北に集中しているというわけです。

 

 実はこの「全国最下位」というのは非常にデリケートな部分で、今年もこれを巡っては上の10数県の地賃では熱い議論が闘わせられることだと思います。ちなみに長崎が昨年全国最下位となったのは、平成26年以来3年ぶりのことでした。果たして最下位脱出なるか?

目安が出た!①(2018年7月26日)

 

 1日遅れですが昨日の朝、今年(2018年度)の地域別最低賃金(長崎で言うところの長崎県最低賃金)の改定の目安がまとめられたとのニュースがありました。おとつい24日に中央最低賃金審議会の目安小委員会が開かれ、全国平均で時給を26円引き上げるとのことで、今日7月26日の11時30分から中央最低賃金審議会で正式に結論が出され、厚生労働大臣あてに答申されるようです。

 

 26円の引き上げというのはあくまで全国平均で、実際には47都道府県をA~Dの4つのランクに分け、それぞれ27円、26円、25円、23円とされています。ちなみに長崎県はDランクで、現行の最低賃金は時間額737円ですから、目安通りの引き上げになれば、時間額760円になります。

 

 今後のスケジュールを予想すると、今日の答申を受けて全国47都道府県の地方最低賃金審議会で審議され、おおむね8月中旬までには結論が出て、10月上旬には新しい最賃額が適用されるという流れになります。この目安が出てから地方最低賃金審議会での議論が、毎年毎年夏の暑さに負けず劣らず熱くなるというわけです。今年は記録的な猛暑、地方最低賃金審議会も相当熱い議論になることでしょう。

 

いつまで続く? この暑さ(平成30年7月17日)

 

 九州地方は先週末の梅雨明け以来、高温状態が続いています。いや、九州地方というより日本全体がと言うべきなんでしょう。最高気温は連日40℃に迫る勢いで、まさに異常事態そのものという印象です。だって、朝のニュースで長崎の最高気温が32℃と聞くと、「あっ、今日は涼しいかね」って思うなんて、どう考えてもおかしいとしか言えませんよね・・・。

 

 熱中症による死亡者数も、当然増えているようです。ちなみに、ここ10年間で一番熱中症による死亡者数が多かったのが、平成22年の1731人。次が平成25年の1077人で、さらにその次が平成27年の968人となっています。ある意味当然のことかも知れませんが、熱中症による「死亡労働災害」も一番多かったのは平成22年の47件で、以下平成25年の30件、平成27年の29件と続きます。そして、やはりそうであろうと推測するのがその年の暑さ(気温)。あくまで東京の平均気温のデータですが、過去8月がもっとも高かったのが平成22年(29.6℃)でその次が平成25年(29.2℃)。暑くなればなるだけ熱中症による被害が増える。これ以上被害が拡大しないよう、そしてこの異常高温状態がせめて平年並みに落ち着くよう祈るばかりです。

 

 熱中症対策については、ネットをはじめとしてあまたの情報があります。いずれも特別なことではなく、そして難しいことでもない。淡々と備えていけば間違いなく効果はありますが、こまめな水分補給(できれば適度に塩分・糖分の入ったスポーツドリンク系が望ましい)が何と言っても肝要でしょう。で、この水分補給という習慣、もしかしたら40代以上でスポーツ体験のある方は違和感を覚えるかも知れません。今では考えられないことですが、30年ほど前まではスポーツ(と言うより部活ですね)の時に水を飲むのはご法度でした。真夏の炎天下であれだけ厳しい練習を、それも水分補給なしでしてきたのだから、少々水分摂取を怠っても問題ないだろう・・・。どうやらここには落とし穴があるようです。

 

 汗をしっかりとかくことには様々な効果があって、もちろん熱中症対策としても非常に重要なことでもあるんですが、「汗をかく」ことにも実はトレーニングが必要だということです(これが「熱順化」と言われることにも繋がる)。ところが最近の生活習慣の中で、汗をかく機会が間違いなく少なくなっている。つまりそれだけエアコンが各所に完備されているということですね。真夏の炎天下で激しい運動をしてきた世代も、確実に汗をかく力(発汗能力とでも言うんでしょうか)が衰えてきているということです。実はこれは年少者のスポーツトレーニングでも言われていることで、一説によると発汗器官は3歳までには完成されるらしく、今の子供たちは昔の世代ほど赤ん坊のころに汗をかいていない(それだけ現代は住環境が整備されているということです)から、昔の常識では考えられないほど熱中症には弱い! 指導者は間違っても以前の古い考えを持ち出してはならない、そう厳しく指導されるわけです。世の中の移り変わりは本当に早い!!

 

 この暑さ、いったいいつまで続くんでしょう? 1か月予報では8月中旬まで、ということはあと1か月は続くとのことです。とにもかくにも厳重な熱中症対策が必要だということですね。

長崎労働局安全週間パトロール(2018年7月3日)

 

 今年も全国安全週間が始まりました(7月1日~7月7日)。この週間は昭和3年に第1回が実施されて以来一度も中断することなく今年で第91回を迎えています。戦争中も中断されなかったということは、やはりすごいことなんでしょう。で、今日の長崎新聞にはその主要行事として、昨日(7月2日)長崎労働局が九州新幹線長崎ルートの経ヶ岳トンネルをパトロールした記事が掲載されました。

 

 全国安全週間期間中にこのように現場パトロールをすることは、おそらくほとんどすべての都道府県労働局で実施されていて、その大半は昨日のように労働局トップの労働局長が参加しています。形骸化(セレモニー化)しているとの批判もありますが、都道府県労働行政の責任者である労働局長が現場に足を運び、なによりそれを地元のメディアが取り上げてくれるということ、大きな意味・意義があると前職時代は考えていました。記事にもあるように、「(県内すべての労働現場の関係者に対し)労働災害防止の機運を高めること」。このことは労働災害の減少率が鈍化している、いやそれどころか微増傾向にすらある現況にあっては、少なからぬ効果があると思われます。

 

 それにしても、今日は長崎県内は台風が接近していて、小中学校や高校まで臨時休校になっているようです。台風の接近が早かったら、昨日のパトロールも延期または中止になったかも知れません。舞台裏を知り尽くしている身としては、関係者が胸をなで下ろしているさまが見えるようです(笑)。

今こその、熱中症予防対策(2018年6月15日)

 

 今年は例年より早く梅雨入りしたはずなのに、この2週間ほどは雨も少なくて、週間天気予報は来週半ばまで晴れマークが並んでいます。今年は空梅雨なんでしょうか? 雨は鬱陶しいんですが、水不足は困ったもの。その兼ね合いが難しいところですね(苦笑)。

 

 さて、いつからかは確たる記憶はないんですが、6月に入ったころから朝のニュースで「熱中症情報」が流れるようになりました。まだあまり気温が高くないせいか、例えば今日6月15日は、県内は「注意」と「安心」だけで、あまり心配はいらないようです。もちろん油断は禁物で、熱中症による労働災害が急増するのは、毎年梅雨が明ける7月から。そして想像通りというか、熱中症による労働災害発生状況は、7月と8月で全体の9割近くを占めています。

 

 梅雨明けまでおそらくあと約1か月、そして、熱中症対策としては、この時季だからこそ大事なことがあるんです。それが「熱順化(暑熱順化、暑さ順化とも)」です。要は暑さに身体をしっかりと慣れておこうということ。身体が暑さ(熱)に慣れる(順化)するには、早くても1週間はかかると言われています。梅雨明けの猛暑はもちろんですが、梅雨の半ばでも晴れて湿気が高い(熱中症のリスクが高まる環境です)日に備えるため、今からしっかりと対策を取っておくことが肝要です。

会期延長か?(2018年5月30日)

 

 前回にも書きましたが、国会審議は与野党の駆け引きが佳境を迎えています。今朝の日経新聞によれば政府・与党による会期延長論が出る一方で、今日の午前中には野党は会期延長反対を決めたとのこと。働き方改革法案だけでなく統合型リゾート(IR)実施法案(いわゆるカジノ法案)も俎上に載せられているようで、双方のさまざまな思惑が絡んでまだまだ先は見通せないらしい。どうなるんでしょうね、本当に。

 

 私としては当然のことながら、労働基準法の改正がどうなるのか、非常に関心があるところです。特に問題が多いとされる「高度プロフェッショナル制度」がどう決着するか。ここに来て労働者側から同意を撤回する手続きが盛り込まれそうな新展開になりました。この「修正」だけで終わるのか、はたまたさらなる動きがあるんでしょうか。

 

 あくまで個人的な見解ですが、まだまだ議論されるべき論点が相当残っているように思えます。そもそも巷間言われている年収1075万円以上だって、法案上は明記されていません(だいたいなんで1075万円という中途半端な数字なんだという疑問も、あまり明確な答えはないようです)。法案には対象となる職種も明記されておらず(要はこれから議論していくということなんでしょう)、この辺りが反対論者から突っ込まれているところだし、対象がなし崩し的に広がっていくという疑念に繋がってしまっているんだと思います。

 

 会期を延長すれば法案が成立する可能性は高まるとはいえ、「モリ・カケ」問題やらなんやらでさらなる追及が出るかも知れない。これが与党の立場を難しくさせていて、その反対が野党の立場ということになる。審議時間を十分取ってしかも会期延長はしないということになると、確かに法案は廃案にはなるが、しかし一方で残業時間の上限規制も同時に立ち消えになってしまって、はてさていったいどう決着するんでしょうか?

 

監督官が足りない!(2018年5月23日)

 

 「働き方改革」関連法案の国会審議(衆議院厚生労働委員会)がヤマ場を迎えているようです。そんな中、おとつい5月21日の長崎新聞に気になる記事を見つけました。見出しはズバリ、「監督官不足『手が回らず』」。

 

 記事によれば、全国の企業約400万事業所に対し、321か所の労基署に配置された労働基準監督官は2991人とあります。単純計算で監督官一人当たり約1,300事業所、1事業所をきめ細やかに指導すればどうがんばっても10年はかかることになります。実はそんな単純なことではなく、厚生労働省労働基準局が発行している「労働基準監督年報」によれば年間の監督件数は約17万事業所で、400万事業所をすべて回るとすれば23年以上かかることになる。1事業所に対し四半世紀に一回しか指導しない(できない)なんて、どれだけ効果があるのかということになってしまいますね(これはあくまで単純計算で、実態はもう少し違う意味はあります)。

 

 なぜこんな状況なのかと言えば、記事を読むまでもなく、監督官が足りないからです。では監督官を増員すれば問題は解決するのか。しかしそこには「国の人件費削減」という問題もあって簡単なことではない。政府の規制改革推進会議は監督業務の民間委託を拡大すべきとの提言をまとめましたが、逮捕権まである監督官の業務を外注することは、厚労省の抵抗というより現実的な解決策ではないでしょう。元労働基準監督官として、今後の施策に大いに注目しています。

2017年の長崎県内の労働災害発生状況(2018年5月15日)

 

 1週間ほど前の長崎新聞に、昨年2017年(平成29年)の長崎県内の労働災害発生状況が掲載されました。休業4日以上の死傷者数は前年と同じ1459人で、死亡者数は前年より3人増えて16人とのことです。ここ10年、労働災害はほとんど減っていませんし、特に過去5年は上昇傾向にすらある。大見出しにあるように、「高止まり続く」という憂慮すべき状況だと思われます。

 

 記事の後半に気になる部分がありました。ひとつは原因別(労働安全衛生の分野では「事故の型別」といいます)では「転倒」がもっとも多いこと、そしてもうひとつは死傷者の約半数(54.4%)が50歳以上だったことです。もっともこれは2017年に限った話ではなく、前年の2016年もさらにその前年の2015年もまったく同様です。

 

 日本は社会全体として高齢化が進行していますが、長崎県は全国を上回る率で高齢化が上昇の一途を辿っているそうです。記事にもあるように、「加齢による身体機能の低下」→「段差につまずいたりぬれた床で滑ったりする転倒事故が増加」という、ある意味労働災害防止対策を講じることが難しい状況に直面していると言えます。